鍼灸院に来る患者さんは、様々な症状を訴えます。今回は、身体の片側に訴える痛みについてお話したいと思います。そのなかで症状の多い腰痛について少しお話します。
腰痛は鍼灸師が一番治療する症状だと思います。何らかの症状を目的に来院されても腰痛を付随して治療することが多く、腰痛の治療はあまりに日常です。腰痛の治療ができない鍼灸師は、臨床家として生きていくことはまずできないでしょう。それほど腰痛を治療する場面が多いのです。
さて、「腰が痛い」という患者さんでも腰全体が痛いということもあれば、「腰の右側が痛い」「左側のここら辺が痛い」など、片側の痛みを訴えることがしばしばあります。
臨床ではまず、痛みの箇所を確認します。それ以外にも確認していくことは多々あります。原因は何か。いつ頃から痛いのか。痛みの種類。痛む時間帯。どの姿勢で痛むか。現代医学的に考察してみる。熱感や冷感はあるか。東洋医学的な脈や経脈・経筋について検討してみる。などなど。全て意味を持たせて問診、確認していきます。何となく聞くということではなく、考えながら次の治療を想定しつつ聞いていきます。
始めに言っておきますと、鍼灸治療は色々な治療法がありますので、各鍼灸師によって治療の仕方は異なります。千差万別です。仮に同じような治療効果を得られる治療でも、見ていて鮮やかな治療もあれば、素朴な治療もあります。器用な鍼灸師もいれば、不器用な鍼灸師もいます。道具を多く使う鍼灸師もいれば、道具をあまり使わない鍼灸師もいます。私はどちらかといえば、後者よりだと思います。
私は片側の痛みの治療でポイントとしていることが1つあります。必ず両側の反応を確認します。左右差を診ます。右腰が痛い時は、左腰も確認します。東洋医学では腰と脚は繋がっているとみているので、右脚を確認しつつ左脚も確認します。何らかの反応が出ていることがありますので、その反応に応じて鍼や灸をしていきます。その反応とは色や艶、熱感や冷感、硬さや柔らかさなどです。反応に応じた鍼や灸の使い分けも、鍼灸師の腕ということになろうかと思うのですが、ここは場数、経験が必要だと思っています。書物や講義だけでは机上の空論となってしまいがちで、やはり実際の臨床、治療で得ることのできる技術だと個人的には思っています。ちなみに、私は師匠の治療を見る機会に恵まれてきたので、臨床を通して学ぶことができました。だだ振り返ると、当時の私は師匠達の治療の意味が分かっていなかったと思います。問診事項の意味合い、ツボの取り方、何故灸をするのかなど。余談ですが世の中の鍼灸師は、鍼をする鍼灸師は多いのですが、灸をする鍼灸師は少ないのが実際です。駆け出しの頃は分からないことだらけでしたが、ノートをとっていたのであとから見返したりして、気がつくことが多くありました。
具体的な治療について少しふれます。右腰が痛い時は、痛む右腰だけでなく左腰にも鍼や灸をします。左右の脚にも鍼や灸をします。ツボを取り鍼や灸をします。ツボは反応を診て取ります。反応はまず、目で色艶などを診ます。熱感や冷感を診ます。陥下や膨隆を診ます。例えばツボに熱感があれば、熱を取る鍼や灸をします。ツボが凹んでいれば灸をします。左右の腰や脚のツボに対して基本的には同じことを行います。痛みのある箇所が該当している経脈(ツボとツボを結んだ線または面)を中心に確認していきます。
丁寧に身体やツボの反応を診てきましたので治療後、自宅で腰だけでなく場合によっては脚のツボへ灸をしてもらうようにお話します。いわば養生指導です。
私は再現性を求めて治療をしています。師の武藤先生からは「治療は再現性が必要だ」といわれてきました。行き当たりばったりの治療で、治せたり治せなかったりということではよくないと思っています。最後に、ここまでいいことばかり書いてきましたが、人の身体が対象なので順調にいかないこともやはりあります。脈が変化しない、身体やツボの反応が出ない、反応が分かり難い時などは予後に時間がかかることもあります。その様な状態であったとしても、私はできるだけ患者さんへ説明するように心掛けるようにしています。
片側の腰痛について話してきました。次回また何か考えてみたいと思います。