最近、所属する会から依頼され文章を書きました。資料集めをしていたら鍼灸業界のこれからについて気になることがありました。はり師、きゅう師の直近に当たる国家試験の受験者数と合格者数が大幅に減少していました。私見となりますが、なぜ減少したかについて考えてみました。

表は、公益財団法人 東洋療法研修試験財団のサイトから拝借しました。

はり師の受験者数と合格者数を5年間について対前年度比で見てみました。

2年度(第29回)  受験者数▲13%  合格者数▲17.3%

元年度(第28回) 受験者数▲8.8% 合格者数▲12%

30年度(第27回)受験者数+5.1% 合格者数+39.1%

29年度(第26回)受験者数+2%    合格者数▲12%

28年度(第25回)受験者数▲5.1% 合格者数▲13%

きゅう師の受験者数と合格者数を5年間について対前年度比で見てみました。

2年度(第29回) 受験者数▲11.8%  合格者数▲14.4%

元年度(第28回)受験者数▲7.4%  合格者数▲12.4%

30年度(第27回)受験者数+2.1% 合格者数+28.5%

29年度(第26回)受験者数+2.5% 合格者数▲5.4%

28年度(第25回)受験者数▲6.1% 合格者数▲15.2%

最近の受験者数と合格者数の減少について検討してみます。

平成29年度(第26回)試験問題が難化し合格率が下がりました。この時の合格率は、はり師57.7%、きゅう師62.5%で共に過去最低の合格率でした。当時、勉強会に参加する受験生から難しかったという感想を聞き、同時に不安を感じる受験生が多かったように記憶しています。翌、平成30年度(第27回)試験は揺り戻しで合格者数が大幅に増加しました。合格者数は前年度比ではり師+39.1%、きゅう師+28.5%となりました。前年の不合格者となった受験生の救済措置が図られたと考えられなくもありません。そして、この合格者数増加の反動で令和元年度(第28回)と2年度(29回)試験の合格者数が大幅に減少したという見方があります。

また、新型コロナウイルス感染症の影響は否定できません。コロナ禍により学校での退学者も出ているとも聞いています。オンラインの授業でモチベーションを続けていくのは大変です。3年間の学費だけで400~500万円位かかりますので、経済的負担も重くなります。先々を考え、受験を諦めてしまう方もいるかと思います。

ただ、短期的にはコロナ禍の影響を受けつつもコロナはきっかけに過ぎないというのが私の考えです。決定的な要因として、構造的な問題が潜んでいるように思えます。例えば、少子高齢化に相まって年々18歳から鍼灸の道を目指す人が減っているように思います。高等学校を卒業して鍼灸の専門学校へ入学してくる人達が減り、年齢層が高くなってきているのです。釣り鐘型の人口ピラミッドを想像できます。また、職業選択の範囲が広がり以前よりもしかしたら若い人達が鍼灸に職業的な魅力を感じなくなっているのかもしれません。

前々から少子化が見えている状況の中、2000年頃から鍼灸師を養成する専門学校が乱立されましたので、その反動もあるかと思います。言い換えれば、必要以上に学校が増え過ぎてしまい、一時的に国家試験受験者数等は増えたのですが、本来あるべき適正な人数に戻ってきたということです。専門学校では教員不足になった時期もありました。ここで重要な問題として、教育の質の低下はよく危惧されてきました。教育を受け卒業し国家試験を経て鍼灸師となっても、治療技術や医療人として未熟な鍼灸師を生んでしまうのではないかということです。残念ですが、時には経験の浅い鍼灸師の鍼灸治療を受け、鍼灸は効かないものだと思わせてしまった可能性も否定できません。これは高校を卒業したばかりの鍼灸師の卵たちや個々の鍼灸師の問題というよりも制度の問題となってきます。なお、私も2000年以降に設立された専門学校で学んでいたので恩恵は受けています。ですが、主に学外での勉強会や師匠から学びを得ました。

ところで、柔道整復師の国家試験も近年、はりきゅう師と同じように受験者数や合格者数が減っています。柔道整復師も養成学校が乱立された歴史がありますので、鍼灸業界と同じ様な問題を抱えているのかもしれません。

また、2年度(第29回)試験のはり師、きゅう師は共に受験者数3000人台という数字でした。これは平成15年度(第12回)試験以来となります。毎年の受験者数は5000人位だという認識でしたが、いつの間にか減っていました。相当以前から問題を内在させていたように感じます。

なお、看護師の受験者数や合格者数は増加傾向にありますので、受験者数や合格者数に限るとコロナ禍の影響は少ないように思います。数字からも現在、看護師は社会から必要とされ、目指す人も多い職業のようです。

問題を提起しましたが、私の中に解決する方法を持ち得ないものか考えてみました。理想、望みです。ここは妄想の領域に入ります。

学校教育の中に東洋医学や鍼灸を組み込んでみたら面白いと思います。東洋医学や鍼灸を保健体育や課外授業等を通じて年に1回でもよいので子供たちに触れる機会や興味もってもらう機会を提供できれば、時間はかかりますが若い人達や市民に理解してもらえると思います。

足が冷えると腰が痛くなる。冷たい風にあたると風邪をひく。身体にはツボがある。このような東洋医学の基本でいいのです。また、あん摩マッサージ指圧師が子供たちに楽しみながらマッサージを指導し、自宅で子供たちが疲れたお父さんやお母さんの肩もみをしてあげる。このような光景を見てみたいものです。

東洋医学は江戸時代などでは料金はかかりましたが、普通に市民が利用していました。予防医学という視点からもお灸といった東洋医学は社会に普及していました。

ただし、学校教育の中に入れてみるということは、文部科学省や厚生労働省等も関係しますので、そう一筋縄ではいきません。市民が気軽に鍼灸治療にかかれるようになるには、鍼灸院や鍼灸業界も改善することが多々あります。改善できるところは改善し、市民に理解してもらえたうえで、若い人達に鍼灸の道を選択してもらえるような日が来たらと思います。

昨今、日本の鍼灸業界を引っ張ってきた団塊の世代が引退し始めました。また、コロナ禍で各勉強会の形態も変わってしまいました。実技を学び、経験を積める機会が本当に少なくなってしまったという印象があります。

受験者数と合格者数を見るように鍼灸師のなり手が減り、引退する先生が増え、学べる場が少なくなってきているのが現状ですが、3年後位には鍼灸業界の方向性の答えが「何か」見えてくるような気がします。