鍼灸がなぜ病いに効くのか?
それは「鍼と灸が身体の機能の異常を調節する」からです。また、「本来の生理的な状態に回復させる作用」もあります。その効果について、いくつか紹介したいと思います。
①自律神経への作用
まず、自律神経の説明を簡単にします。
自律神経は、交感神経系(以下、交感神経)と副交感神経(以下、副交感神経)の2種類に大別されます。
自律神経は内臓や血管の機能をコントロールする神経です。
交感神経が体を支配すると身体はアクティブな状態になります。緊張したとき手に汗をかいたり、心臓がドキドキするのは交感神経が働いているためです。なぜ手に汗をかくかというと、これは人が進化の過程で獲得した機能といわれています。例えば、人が原始的に狩りをしていた時代がありました。武器はおそらく、こん棒などであったでしょう。すると、武器が手から滑ると獲物をとる確率が下がってしまいます。そこで武器が手から滑り落ちないように手を湿らせるために汗をかくようになりました。また、心臓を活発に動かして血液を通して全身に新鮮な酸素や栄養などを送り身体のパフォーマンスを上げます。このようなときは、交感神経が働いています。
副交感神経が支配すると身体は、リラックスした状態になります。睡眠中などの身体を休めるときに働く神経です。
私たち人間の身体は、活動的な時は交感神経が支配し、リラックスする時には副交感神経が支配します。
このように相反する働きを持った2つの自律神経が、交互に身体を支配することで身体機能が保たれています。
習慣や環境、年齢などにより自律神経は乱れてしまうことがあります。現代人は交感神経が優位になっているといわれています。このように乱れた自律神経を鍼や灸は、整える効果があります。
➁内分泌系(ホルモン)への作用
鍼と灸はバランスの乱れたホルモンを調整する効果があります。
鍼や灸でのツボへの刺激は女性ホルモンの分泌を促し、調整をはかれることから不妊治療なども行われています。また、女性ホルモンや男性ホルモンの低下からおこる更年期障害などにも大変効果があります。
③免疫作用の向上
我々の身体は鍼や灸を受けると、血液の中にある免疫細胞(T細胞やNK細胞など)が促進します。免疫細胞は、細菌やウイルスが身体に入ってきたときに、病気などにならないように抵抗し排除するよう戦ってくれる細胞です。ほとんどすべての病気に免疫学的反応や異常が関与しているといわれています。
鍼灸治療を継続的に行うと、身体が温まり循環が改善され、生体の防御機能が増します。その結果、「風邪をひかなくなった」「身体が丈夫になった」と実感すると思います。
自律神経と内分泌系(ホルモン)と免疫は、密接に関係し私達の健康維持に影響しているといわれています。このバランスを崩してしまうと病気になってしまうだけでなく、更年期障害や原因のはっきりしない症状などの不定愁訴といわれるような症状にかかることもあります。鍼灸治療は、悪い箇所だけを治すのではく自律神経、ホルモン、免疫の機能を調整し身体全体の向上をはかれます。
④痛みの緩和
鍼や灸は痛みを抑える効果があります。鍼や灸をすると痛みを抑える鎮痛物質を誘発します。これは鍼や灸の刺激によって、もともと人が備えもつ痛みを抑える機能(内因性鎮痛機構)を活性化させることによります。
痛みの疾患と鍼灸をイメージすると腰痛や五十肩をまずイメージできるかもしれませんが、適切なツボをとることにより頭痛などにも効果あります。頭の中には直接鍼や灸はできませんが、手や足の離れたツボを使って痛みをとる治療は鍼灸の得意分野であるといえます。
⑤消炎作用(抗炎症作用)
鍼と灸は炎症を抑える効果があります。例えば、急性症状であるぎっくり腰などは炎症をおこしていますが、その炎症を鎮静化させる効果があります。