結論から言いますと、鍼灸治療は筋肉痛に効きます。大変有効だと思います。その効果は、痛みを取り去るだけでなく、回復を早めます。様々なプロスポーツやオリンピック競技等のアマチュアスポーツの現場にも鍼灸は生かされています。
先ず始めに、筋肉痛とは「筋肉に生じる痛み」を言いますが、メカニズムなど未だに解っていないことがたくさんあります。身体の中は複雑で様々な作用や影響が関わり合いますが、今回は教科書をめくりながら、私の解釈を加えつつ筋肉の痛みと血液の流れにポイントをおいて説明します。
筋肉の痛みについては、鍼を刺すと自身の身体から痛みを抑える物質が分泌されることが分かっています。また、筋血管の血流が増えると痛みの原因となった発痛物質が排除されて痛みが解消することも分かっています。
血液の流れについては、筋血管の血流が減少すると、痛みが発生します。血流が正常になったり、回復していくと筋肉の痛みは解消されていきます。
血管は、自律神経の交感神経の命令を受け働いていますが、交感神経が強く働くと血管を収縮させてしまいます。筋血管が長い時間収縮し続けると筋血流が減少してしまうので結果、痛みへとつながります。鍼や灸をすると自律神経の副交感神経へも影響を与えますので、交感神経の働きが弱まっていきます。すると筋血管が拡張していき筋血流が改善し、筋肉の痛みが解消していきます。なお、一部の血管は副交感神経に支配されているものもあります。
ところで鍼灸治療には、身体を回復させる幾つかの作用がありますが、その中に「誘導作用」というものがあります。教科書によると、患部に直接鍼や灸をするか、または遠隔部に鍼や灸をして、その部の血管に影響を及ぼし、充血を起こし、患部の血流を調節するものとあります。さらに誘導作用は2つに分かれます。
①患部誘導法:局所の血行障害に対し、直接その患部に施術して、血流を他の健康部から誘導する方法。
②健部誘導法:局所の充血または炎症などの際に、その部位より少々隔たった部に施術し、血液をそちらに誘導し、患部の血流を調節する方法。
ざっくり要約しますと、身体を回復させるには、悪い箇所だけに鍼や灸をすることもありますし、少し離れている箇所に鍼や灸をすることもあります。
患部を選ぶか遠隔部を選ぶかという治療箇所の見極めは、鍼灸師の特性によるかと思います。鍼灸師の持つ理論や技術、経験、好み等によるかと思います。
私の場合は、筋肉痛が急性期か慢性期であるかを確認し、熱を持っているか冷えを持っているかを診ます。脈を診たうえで患部や遠隔部に対して、熱と冷えに応じて鍼や灸を使い分け治療します。患部だけ治療することもあれば、遠隔部だけの治療もあり、また両方治療する場合もあります。
確かに、筋肉痛はもとより身体の仕組みや働きについては、東洋医学のみならず現代医学を以てしても解明されていないことが多々あります。しかし東洋医学は、数千年に及ぶ先人たちの経験の積み重ねを経て、体系化されてきました。我々鍼灸師はその中で、効果があるものを見極めて鍼灸治療をしています。