「養生(ようじょう)」とは一言で、生命を養うことを言います。まず、自然との結びつきを重視し春夏秋冬の四季の移り変わりと心身の調和をはかる生活をしていくことが基本になります。鍼灸師の視点から言いますと、鍼やお灸で健康の増進をはかる。医食同源と言われるように飲食に過不足がないようにする。これは食養生(しょくようじょう)などとも言われています。また、しっかり睡眠をとる。身体を冷やさない。適度な運動をする。心身に過度なストレスを溜めずに穏やかな生活を心がける。などがあげられます。

養生と言うと何だか地味な印象を受けますがとても大切です。鍼やお灸をして病を治すことだけが、治療だと思っている鍼灸師もいます。または、分かっていても実践しない鍼灸師が結構多い印象を受けます。学生時代の私もそうでした。東洋医学では、病気になってから治療するのではなく、病気にならないようにすることを理想としています。古い医学古典の中では「聖人不治已病.治未病」というような記載があり、病気になってしまってから治療方法を講ずるのではなく、まだ病にならないうちに予防するというようなことが書かれています。現代医学においても2型糖尿病になれば、薬だけでなく食事療法や運動療法が必要になります。逆に食事に気をつけ適度な運動を行っていれば2型糖尿病には罹りにくく、予防になると言われます。

東洋医学では2千年前から養生についての大切さを述べています。私見で鍼灸師の養生の特徴についてまとめてみました。

・鍼灸師は、自分に鍼やお灸の養生をあまりしない

鍼灸師は鍼灸の学校に通う学生時代は、自身の練習を兼ねて鍼やお灸で養生を頻繁にします。しかし、国家試験を通過し鍼灸師となってしまうと養生をしなくなる人が多い傾向にあります。理由の1つとしては、実はペーパー鍼灸師が多く鍼灸そのものから離れてしまう方が多いと思われます。鍼灸とは技術の世界でもあるので、日々臨床に立ちつつ鍼やお灸に触れ、試行錯誤を繰り返していかないと養生であっても理論や技術は鈍りますし、低下してしまいます。また、患者さんに適切な養生指導(アドバイス)ができません。しかし、自分や家族に養生や治療をしていれば理論や技術は向上すると思います。養生をしていくきっかけとしては、どこかの鍼灸の会に入って周りの鍼灸師達から刺激を受けるのも一つの方法だと思います。

ところで私は、大型自動二輪免許を持っているのですが、15年以上大型バイクを運転していません。クラッチを上手く繋ぐ自信がありませんし、恥ずかしながら立ちごけの恐れさえあります。倒してしまったら200㎏を越すバイクを持ちあげる力もないかもしれません。完全なオートバイのペーパードライバーです。普段運転をしていないと必要な技術や体力は衰えるものだと自覚しています。ただ、たまにバイクに乗りたいなと思うことはあります。

また、数年前の学会で、鍼灸師は自分に対してお灸を使って養生をする人が少ないという報告がありました。私が所属する会の鍼灸師達でも毎日、お灸などをしている方は少数派だと思います。私は師匠達が養生を重要視していたこともあり、ちょくちょく足へお灸をしていました。また、足を怪我してからは、ほぼ毎日お灸をしています。たまに鍼灸師で自身のツボへ貼る鍼をしている方を見かけることがありますが、養生の観点からちょっと嬉しくなったりします。

・夫婦が鍼灸師でもお互い頻繁に治療し合うことはない

夫婦が2人とも鍼灸師という方々を見てきましたが、交換治療をして養生している先生はほぼいませんでした。片方だけ治療を受けるということはありますが全身治療を受けることは少なく、局所治療というケースが多いかと思います。悪くなった時に腰だけの治療、頭痛がするので首や手の治療などというケースです。なお、局所治療でツボなどを確認する重要性はありますので、全身治療を必ず行わなくてはならないという訳ではありません。

以前飲み会の時に、「松本さんのところは、奥さんも鍼灸師だから羨ましいわ。いつでも自宅で治療を受けたいわ。一家に一台鍼灸師!」と言われたことがありますが、正直なところ昔ほど交換治療をすることはなくなりました。

・夏でも靴下を履く

鍼灸師は、足下を冷やさないようにしています。頭寒足熱が基本です。足下が冷えると特に首から上に症状が出やすくなるので、素足でいることがなくなります。例えば、熱は上へ行く特性があります。首から上へ熱が行くと脳血管の拡張、拍動が生じ頭痛がおこりやすくなります。いわゆる片頭痛などです。また冬場の寒い時期、外に長時間いると足下から冷えてきて腰や膝が痛くなる経験は誰しもあるかと思います。

私の所属する鍼灸の会では、講師や受講生は夏でも靴下を履いている方がほとんどです。私も鍼灸師になる前、夏は裸足でサンダルを履いていました。しかし今は、裸足のままサンダルで外出はしなくなりました。足が冷えるからです。寒い冬だけでなく夏でも靴下を履くことは、簡単養生法の1つです。

何事も続けていくことに意味や価値があると私は考えています。一方で、全ての養生をしようとすると生活に息苦しさを感じてしまいます。人生には余裕や遊びが大切だとも思っています。私は冷たい牛乳を飲むのが好きで、身体を冷やすと分かっていても毎日飲んでしまいます。聖人を目標としつつも全部の養生を行うのではなく、鍼灸師として自分にできる、続けられる養生をまずしていくことが良いのではと思っています。

鍼灸師の方で、内容により不快にさせてしまったら申し訳ありません。